「物書きさんの三日日記」感想・レビュー集(2)

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【佳作】◆小梅あかりさま『スカーフに春を乗せて』◆
https://estar.jp/novels/26334467

「完成度の高い良質のエッセイでした」

「ファッションと外出にまつわる三本立て」とされています。その通り、今を生きる自分を見つめながらの心華やぐおしゃれとちょっとした外出の記録。単にレポートではなく、それぞれに独立した素敵なエッセイに仕上がっています。
一日目。紅色のショールの思い出。友人のM子さんとの思い出とその死。自身も同じ病気を患っている中で、それでも小梅さんはM子さんから買った紅色のショールを身に着け、前を向く。死者を悼むという難しいテーマを、小梅さんは少し距離を置いて冷静さを保ちながら丁寧に自分の生きる糧へと転化しているように感じます。身近な人の死を描くことはとても難しいこと。「まぶしいほどの生命力」を見に受けるラストは心に迫ります。最後の一文がとても上手だと思いました。
二日目。新宿のデパートにスカーフを買いに行って、気後れする気持ち。素直なてらいない筆致で共感を呼びますよね。個人的な話ですが、私は怖くてデパートでの買い物はできないんです。自分の中に残る田舎者の恐怖心です。さて、そういう中で店員さんとなんとかやりとりしながら、素敵なスカーフとスカーフクリップを購入するまで。おしゃれって、不思議なものだとしみじみ感じます。おしゃれすることで自分をポジティブな気持ちにさせるのなら、それはいいことですよね。そういう女性の心理の書き方が巧みで、とても好感が持てました。そして、けれど二十代とは違う自分を自覚する。ここでも、最後の文章がとても利いていて、素敵です。
三日目。銀座でアフタヌーンティというぷち贅沢な時間を持つ。これも女子の憧れ。小梅さんは何でもやってみよう、とポジティブに自分を肯定している気がします。それが皆の力にもなるのではないでしょうか。「本当のフランスには行けなくても、身近なところに小さいパリを作って楽しむ方法もある」。思いがけないバーの店員さんの心配りとともに、心に残る一作でした。
ありがとうございました。

◆美月紫苑さま『独白(三日日記)』◆
https://estar.jp/novels/26375891

「日常から学んで執筆に活かす!」

最初の印象的な夢のシーン。
夢自体をそのまま小説にするとはあまり面白くはない。でも、夢にインスピレーションを得て何かのイメージやエピソードにつなげられると、けっこう思いがけないものが出来たりして面白んですよね。だから、夢とそのイメージを書き留めておくことって、大事らしい。
一日目の日記はそんな夢の不思議から。
二日目のバレンタイン。細かく描写しつつ、美月さん、文フリなどのやり方の参考にしているのだからさすがです。そうなんですよね。自分が何かをやることによって、見る目も変わると思うんです。
チョコレートを買いに行く、というところでもそれだけに没入しない! こういう積み重ねって、けっこう思わぬところで生きてくると思うんです。私もそういう目で日々を送っております。
それをさらに突き詰めたのが、三日目の「蜷川実花展」でしょうか。「刺激をもらう」ためにアート系の催しに出かける方は多いのではないかと思います。その時すぐに何かの成果にならなくても、あとあと思わぬイメージになったりして。
日々インプットしている美月さん。
そういう生のお話をお聞きできるのは貴重です。
ありがとうございました。

【佳作】◆蒼生光希さま『冬の三日日記』
https://estar.jp/novels/26340759

「子育てや仕事や、そして執筆。共感を呼ぶこと必至でしょう」

一日目は執筆を一区切りした蒼生さまの子供たちとの時間。それでも子供の遊具をやってみて冷っとした気持ちとか、ママ友の別の姿とかを思い、しっかりインプットにも余念がない。まさに物書きさんの日常ですよね。
二日目。本当に子供さんたちをかわいいと感じながらも、子供に時間を奪われることにストレスも感じていた蒼生さま。「境界線から先には侵入しないでほしい」という思い。でもある日ちょっと見方が変わる。
その内容が素晴らしいのです。「壁より、グラデーションの気持ち」……。多くの子育てをがんばるお母さん作家さんに、きっと響くことでしょう。
それから一か月後の三日目の日記。なかなかに日々の仕事に忙殺されながらも、蒼生さまの執筆への思いはすっと芯が通っていて、感動します。
「同じ時代を生きる、私とは違う方々からも影響を受け、小説を書き、それが読んでくださる方の心にそよ風でも起こせるようなことがあれば幸せ」……。あんまり素晴らしいので引用しちゃいました。
ありがとうございました!

◆孫一さま『趣味。』◆
https://estar.jp/novels/26351257

「書くのが楽しいから書く」

親友から「趣味がない」と痛烈な一言を受けた主人公、一念発起してたどりついたのは「小説を書くこと」。公募(妄コン!)に出会った彼女は小説を書き始めるが……。
はじめはやる気満々で臨みつつ、結果が出ないことに追いつめられていく心情が痛いほど沁みます。でも、親友からの助言でさらに書くことを続けていく。そして字数も執筆速度も上達していく。
「物を書くこと、それ自体が私はどうやら好きらしいとようやく気づいた」。
結果を求めるよりも「私は楽しいから物を書きつづける」「生活の一部に物を書くという行為が根差した日々は、とても張り合いがある」。
 書くことに悩みながらもだんだん自分はそのことが好きなんだ、と気づいていく。素敵ですね。同時にこの作品は恭子ちゃんという、親友との友情のお話でもあります。恭子ちゃんが読んでくれるから、楽しみにしてくれるから「書く」。小説って、いちばん大事な人に読んでもらうために書く、という言葉を聞いたことがあります。それを実感できる孫一さまは、とても幸せな書き手の一人ではないでしょうか?
ありがとうございました!

◆アキラさま『アキラの三日だけ日記』◆
https://estar.jp/novels/26342138

「日常の細やかな描写、綴っていただいたことに感謝です」

アキラさまの日常がつづられた日記です。丁寧な筆致で、細やかに書かれていて、知らないことを知ったり、共感したり驚いたり。
一日目は発熱してクリニックに行った話。私驚いたのですが、具合が悪い時なのに、細かなことをすべて覚えていて書いていらっしゃいますよね。さすが物書きさんだなと思いました。
二日目はアキラさまの愛猫、縞子さんの思い出。襖を破って開けた穴から押し入れの奥に逃げ込んでしまう姿が何とも愛らしいです(猫ちゃんは怖くてしようがないのですから、こう言っては悪いですよね)。私事ですが、私も実家では猫と暮らしていたので、微笑ましく拝読しました。やっぱり縞模様の猫でした。
三日目の農園でのお仕事。私たちの食べている野菜…。私は田舎の出身で親戚には農家もいましたが、野菜農園のお話は初めて聞きました。しかも昔と違って企業によって運営される農園ですよね。想像以上にきつそうな仕事。こういう貴重なお話、日記に書いて下さらなければなかなか知ることはなかったです。スーパーで野菜を見ても、見る目が変わる気がします。
アキラさまの農園の野菜はこども食堂でも使われているようですが、そこでのこどもたちとのつながりに想いを馳せていらっしゃる姿も素敵です。
とはいえ、現実社会のいろいろのことを感じさせられるお話でした。こども食堂があること自体が、昔では考えられなかったことですよね。
今回は内容にぐっと目がいってしまいました。
書いてくださって、ありがとうございました。

◆浜風帆さま『三日日記【朗読劇会 Hamakaze-Kai 2nd】』◆
https://estar.jp/novels/26347078

「朗読劇という興味深い活動の記録です」

浜風さんが主催した朗読劇会。朗読劇というのは、小説を声優さんに朗読してもらうものですが(いや、もっと詳しいことはぜひ浜風さんにお聞きください)、それを主催した中での奮闘ぶりが記されています。
実は何を隠そう、私もこの会にお邪魔して、じっくり堪能してきたのです。(ここでは朗読劇の感想ではないので、詳細は割愛しますが、想像以上に生き生きとして、文章で読むイメージとはまったく違う世界が立ちあがってくるものでした。皆さんも、機会がありましたら、ぜひ。いえ、YouTubeがありますね!)
イベントを主催するのはすごく忙しく慌ただしく、大変なことであることが伝わってくる一種のルポルタージュのような日記です。でもそれだけではない、本当に好きなことに全力で取り組んでいる手応えが伝わってきます。
「自分が好きな作品を凄い方々にやってもらう……」「自分の子供達の晴れ舞台」。
いいですね、素敵な活動です。
皆さまも、チャンスがあったらぜひ! 素晴らしかったですよ!

◆内藤晴人さま『三日日記』◆
https://estar.jp/novels/26339433

「スマホが壊れたモヤモヤの日々の記録」

スマホは現代人の命綱。かつスマホで執筆している物書きさんならなおさら……。
その焦りとモヤモヤの日々を記した日記です。
分かります。今はスマホ一つでも、ものすごく山ほど面倒くさいことがありますよね。私事で恐縮ですが、機種変だけで頭がおかしくなりそうでした。
けっきょくスマホは無事修理され、修理代金もかからなかったようです(あ、ネタバレか)。
でも、想像するとぞっとしますよね。
とにかく、無事で何よりでした。
スマホの大事さを再認識。
ありがとうございました。

◆絵空事さま『夢か現か幻か』◆
https://estar.jp/novels/26342756

「2000年2月12日は何だった?」

「ほぼ100%ノンフィクション」と銘打たれている不思議体験。
臨床実習中の2000年2月12日。体の異常で発熱を感じた絵空事さんは、先生に電話をかけ、欠席の了承をとる。ところが別の先生から、無断欠勤とは何事かと電話が入り……。
まあ、いろいろと解釈は可能でしょう。
あまりに過酷な実習の中で脳が幻覚を見たのかもしれません。あるいは、何か超常的な力が働いたのかも。もしかしてタイムリープ? 
日記の本筋ではないかもしれませんが、研修医さんの過酷すぎる勤務(実習から)にぞっとしてしまいました。話には聞くけれど、想像以上。
それはともかく、答えはそれぞれの読者さんに委ねるという感じがすごくいいです。
この体験から、ホラー好きになったのでしょうか?
ありがとうございました!