◆久保田毒虫さま『アデイインザ・ドリーム』◆
https://estar.jp/novels/26356753
「伝えられるメッセージは久保田さまの内奥の声だろうか」
全体に、元旦からコロナになりその過程の夢が二つ、そして三日目に不思議な手紙。
夢そのものの世界をテーマにしたような不思議な味わいの作品でした。
ところで、タイトルが気になって調べたのですが、ビートルズの「アデイインザライフ」を下敷きにされているのでしょうか?
作品の雰囲気と被る感じがしました。
夢という不思議な世界を通して、でもとても意味深な言葉が投げかけられます。
『全てのことには意味がある』
『過去を振り返るな』
『鳥のように自由に羽ばたいてゆきなさい。それは二番目に大切なことだから』
そして最後に『一番目は一体何なんだろう』と問いかけが残されます。
夢という現象を通じながらも、伝えられるメッセージは久保田さまの内奥の声なのですね、きっと。そしてそれは遠く高く飛躍していこうとする思いのように感じられます。
まるで詩を読んだように感じられました。いや、詩そのものでしょうか?
余韻がすっと残る書き方も素敵です。
ご参加、ありがとうございました。
◆相田尚(なりちかてる)さま『相田さんの三日日記』◆
https://estar.jp/novels/26340658
「実は若い作家さんたちに熱いエールですよね!」
相田尚さま(なりちかてるさまに改名?)の砕けた……というよりはダジャレたくさんの三日日記。
なにとなく、空気の抜けたようなとぼけた味わいで書かれています。
でも、「ベッドに潜り込んできたニッドネー(=二度寝)ちゃん(自宅で飼っているサッキュパスちゃんの名前です……)の誘惑もはね除けて……」なんて、ダジャレとともにさりげなくインテリジェンスをさしはさむところ、二度三度、いや、噛めば噛むほど味が出る、という感じでしょうか(わからない方はググってみて!)。
それから、自分の執筆の役割として「刃を研ぎ澄ましつつ、読者さんや他の才能ある新人小説家さんを迎え入れるべく、導き手となるような執筆のあり方もあるのではないか……」というくだり。
自分にとっての執筆の考察として、こういう考え方もあるのだなと私は深く感じ入りました。達観、いえ大人の考え方ですよね、「オトナの」ではなく(笑)。
ともあれ、ずっと書きつづけることの醍醐味を伝えてくださるエッセイでした。
ありがとうございました!
◆田中あみ子さま『三日日記』◆
https://estar.jp/novels/26348056
「漂う物悲しさ、でも情緒ある一編です」
どんど焼き、父母のお墓、母の料理の味と、それに対するアンチテーゼのような自分の料理。
三日の日記に綴られる三つのエピソードが、物悲しくも独特の情緒を生み出しています。
誰でも、ふっと夜中に我に返るような時に味わうのではないかという、そしてすぐに頭から消してしまうかのように奥底にしまい込む心情。それらを巧みに掬いとってくださっていて、読む者をして、ふと己を振りかえらしむるところがあります。
三つのエピソードの世界観がつながって、同じトーンのほの暗さ(それは心の底のほの暗さ)を保持しているのが、魅力的なエッセイでした。
個人的には、特に三日目のお話は、自分に刺さるところがありました。
ありがとうございました。
◆葛城 惶さま『猫又雑記』◆
https://estar.jp/novels/26338633
「博学ぶりを遺憾なく発揮! 常陸国案内記です」
古代や古代文学をこよなく愛する者には読み応えたっぷりの葛城さまの、日記というより学術書(?)。
まあご存知かと思いますが私自身も常陸国(ひたちのくに)には縁深く(つまり茨城生まれ・茨城育ち)、随所にうんうん頷きました。
「梅」は学問に縁深い木。
水戸の偕楽園にある徳川斉昭の作らせた「好文亭」。その名の由来「好文」は梅の異名です。
梅の花の「凛として蒼穹にまっすぐ枝を伸ばし、しらしらとした花を寒風の中に咲かせるさまは、いかにも凛々しく清々しい」……「ひたむきに学問に勤しみ、高みへと手を伸べる姿こそがよく似合う。」
学問と情緒。こんな感性を日常に持ちつづけたいものです。
身の引き締まるような『常陸国・観光案内』です。
私は出身なのでよく分かりましたが(それでも葛城さまの教養の深さには舌を巻きます)、難しいところもあるかも。
もっと詳しく易しい解説書も望みます!
◆蒔田涼さま(海人さま改め)『青音色と私と渡辺綱』◆
https://estar.jp/novels/26337598
「真摯で誠実な仲間との創作」
とても真面目な日記、いや記録と呼んだ方がよいでしょうか(いい意味で!)。
仲間との『青音色』という同人誌を発行する過程が丁寧に綴られていきます。
仲間を信じて、本づくりについてフォントや校正、批評など細やかに話し合いながら臨んでいく姿勢がとても誠実です。
そういう誠実さは自分の創作に対する真摯な姿勢と表裏一体なのでしょう。
素晴らしい創作仲間を得ていらっしゃることが伝わってきます。
私自身は、アンソロジーを編んだことはあるものの、同人誌をつくったことがありません。でも、多くの創作仲間たちというか、そういう試みもしてみたい、共同で一つの本を作り上げる喜びを味わってみたいと思わせられる作品でした。
ありがとうございます。
◆路地猫みのるさま『ファミレス店員が贈る冬のミニコース』◆
https://estar.jp/novels/26347431
「一見渇いたユーモアのようにも見えるけれど、社会人の啓蒙書?」
ファミレス店員が「お客様」に申し上げたい言葉の数々。もちろん、ファミレス店員ではなくとも、接客をするお仕事の方はうんうんと頷くことが多いでしょう。私もその一人、接客業が多いので、そうなのよねーと思いつつ、お料理を供する現場の想像を超えたありさまに絶句しました。
この日記(という体裁ですが)は「お仕事小説」として膨らましたらいいだろうなぁと感じます。
お仕事は大概、見かけより頭をフル回転させながらしているものです。見ていないように見える店員でも、実は端々に目を配ってる。
このお仕事のお話でいちばん面白かったのは、お客さまをどういうふうにテーブル席にご案内するのかの考え方。
なるほどなぁと感心しきり。
店員さんが「あちらのお席へ」ということには意味がある。
お客さまにも想像力を持っていただきたいですね。
【佳作】◆今野綾さま『なんてことない三日間』◆
https://estar.jp/novels/26342211
「書けない物書きさんはまだ書いていないだけ、と思い知る」
冒頭の一段落の展開が、もう上手。
段落の最後の「冬というグレーがかった季節に暖色の陽だまりのような時間です」の比喩で、すっと世界に入り込めます。
今、スランプなんですね。「野菜のアクみたいに」から始まる描写も、書けない物書きさんの気持ちの表現が、すごくぐっときます。私事ですが、私も一年近く書けなかったから、なおさら身に沁みる……。
特に二日目。手にしたノンフィクションの感想を交えながら「事実が面白いのはやはりそこに《《本物》》があるからなんだと思う」「小説ってどこまでリアリティがあるかが勝負なのかもしれない」。そういう物書きさんとしての気づきをすっとかける今野さまは、今はスランプかもしれませんが、間違いなく真の作家さんだと思います。そして父と娘の今の姿を絡めて既に表現している辺り……。
今野さまの創作への姿勢が垣間見られる素晴らしいエッセイでした。
ありがとうございます。
◆小寺アンさん『怠惰なる物書き校正者、読書会に行く』◆
https://estar.jp/novels/26348388
「生き生きした読書会レポート。行きたくなる方も多いのでは?」
小寺さまはフリーランスの校正者。
「絶対に誤植をしてはならない」けれど
「絶対に誤植がなくなることはない」
私事ですが、私も校正を齧ったことがあって、この言葉の重み、少しは実感が持てます。小寺さんは謙遜されていますが、端正な文章からお仕事にも責任をもって臨まれているさまが伝わってきます。物書きさんにとって、校正者は最後の砦ですね。
さて、この日記でメインで語られるのは「読書会」参加の記録。読書会が行われるシェア型書店でわくわくするのは、物書きさん、本好きなら共感間違いなしでしょう。つい、頬が緩むお気持ち、分かります。
肝心の読書会、私もこういった読書会に参加したことがないので、意外にフランクで自由にものを言っていいんだ、と一安心しました。短歌とか詩は、小説書きには難しいところも。だからこそ挑んでみたいです。
まるでルポルタージュのようで、本好きさん、物書きさんにとって楽しいレポートだと感じました。
ありがとうございました。
◆橘 風さま『エブリスタ初めて日記』◆
https://estar.jp/novels/26338677
「楽しい日常の体験をつづって、とても優しい日記です」
「つまらない」から日記を書かなかった……と言いつつ、1日目からとばす展開。面白いです! それから、「頭じゃなく、心の声がやりたいと言っている」──何と素敵な言葉でしょう。それがいちばん大事なのでは? と思わされる私です。
二日目の話題、アーチェリー。アーチェリーをやっている方の生のお話を読めるって貴重ではないですか! 私事ですが極めて運動できない人間なので、スポーツの話はふだん全く触れない世界で興味深いです。
すごく丁寧に私のような何も知らない人間にも分かるように教えてくださっていて感謝。「的の中心を狙う、その、一瞬の集中。」ぎゅっと凝縮した、体験した者にしか分からない感覚なんでしょうね。その体験がまた執筆にも生きているのが素晴らしい!
三日目は椿まつりに行ったお話。写真も鮮やかでどれもとても素敵。椿の性質なども興味深く読みました。心の絵になって、また何かのシーンに生きてくるのだろうな。そんな気がしました。
ありがとうございました!
◆氷堂出雲さま『3日日記』◆
https://estar.jp/novels/26343957
「読者を喜ばせたい気持ちいっぱいで、大好きなエッセイ」
冒頭はハードボイルドタッチ、と思ったら、急にコメディに大転換。「ミステリー作家・氷堂出雲」さまの面目躍如。
基地に侵入する日本人名探偵の変装……何とこれを実演(≧∇≦)写真がめっちゃ怖い笑
東京のオフ会に行くためのオヤジ狩りを打ち砕く手管の数々、めっちゃ楽しい。懐中電灯を隠し持つと違法って……さすがは稀代のミステリー作家!
ファイティング訓練の落ちは……あぁ、何てこと!
若い女の子のエブ友さんに会うのためにあれこれ心配して策を練るのも微笑ましい。楽しい飲み会になったでしょうか?
氷堂さまのサインや落款なども皆かわいくて、欲しくなりました!
ぜひぜひ機会あれば皆さんにサインを💗
楽しいエッセイをありがとうございました。