「物書きさんの三日日記」感想・レビュー集(3)

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【佳作】◆草加奈呼さま『喰い逃げされないように』◆
https://estar.jp/novels/26337616

「ちょっぴり切ない余韻を残す、完成度の高いエッセイです」

私はエッセイの専門家ではありませんが、一見ごくごくありふれたような日常の中の出来事を独特の感性で感じとる力……そういうものがエッセイには大事なのかなと思っております。ちなみに私事で申し訳ないですが、私が読み漁ったエッセイは向田邦子さんの作品。何だか、草加さまのこのエッセイで思い出してしまいました。
息子さんが学校から持ち帰ったホウセンカについていたイモ虫。草加さんはそれを退治するのではなく、何か面白いものを見つけたというように、観察を始めます。
草加さんの過去として、実家の三つ葉についたキアゲハの幼虫に、三つ葉を『喰い逃げされた』ということがあります。今度こそはしっかり羽化を見届けたいと見守る草加さま。そうやって観察を続ける様子がユーモラスでとてもいい感じ。
ところが、蝶ではなく蛾の幼虫であることが判明。そこを調べ上げるのもなかなかです。さすが、物書きさん! 「折り紙の飛行機のようなスマートでスタイリッシュな形の蛾」という表現がまた面白くて、読者としてテンションがあがりました。
では、その結末は? それは伏せておきます。
タイトル『喰い逃げ去れないように』がとても活きていると感じました。
ありがとうございました!

【佳作】◆七瀬コタさま『記憶を、記録に。』◆
https://estar.jp/novels/26266039

「飄々とした文体が魅力的なエッセイ。シリアスなのにユーモア漂う」

一日目、二日目と深刻な、ふつうに考えて辛い体験が語られます。
一日目は小学校、中学校で二回受けたイジメ。無視というイジメ。でも、七瀬さまには理由が分からない。お昼のグループ分けで一人になるのは辛く、屋上への階段の最上階でお昼を食べた思い出……。これだけ書くととても辛い暗いお話のように感じます、いや、実際に辛かったでしょう。でも、どこか文章が飄々としているんですよね。不思議です。イジメられても、「自分がいなければ絶対悪口大会になる」と学校を絶対休まなかった、そういうお人柄。何か親しみを覚えてしまいます。
二日目。「宇宙人だよ4月3日」。義父母と旦那さんを敵に回しての日々。3体1の日々。ところが、これも辛い日々であったろうと思われるのですが、文章はさらにテンション高めにとばし始めます。乱れ飛ぶ比喩が痛快すぎて、ついクスっと笑ってしまう。「宇宙人」だと思えば気が楽だという人生訓には共感する方も多いでしょう。
「夢と希望の12月14日」。もうここに来ると、あまりに軽快な文章や娘さんとのクモ退治の展開に大きく笑ってしまいます。
とにかく読んで、七瀬コタさんの世界を堪能してくださいませ。
ありがとうございました!

◆あかつき草子さま『ギアチェンジ』◆
https://estar.jp/novels/26347489

「編物と小説執筆の交錯が秀逸です」

テンポよい上手な文章でぐいぐい読めます。
100均で毛糸を見つけたことでギアが入り、ぐいっと編物にのめり込んでいく。
私も編物好きなのでよーく分かります。一度スイッチが入ったらなかなかやめられない。なぜだか夢中になる。かぎ針でも棒針でも、ほとんど単純作業の繰り返しなのに、楽しくてしようがない。
創作人生の開始が編物とは! でもあかつきさんの文章から伝わります。書くこともまた、楽しくてしようがないんですよね?
あかつきさんの上手な文章をあえて崩したくないので、私の感想ばかりになっています。ぜひご一読を。
そして「手前、今を生きる人間やんす」のあかつきさん、そろそろ「ギアチェンジ」? タイトルの回収も素晴らしいです。
ありがとうございました!